労務問題でお悩みの経営者の方へ

事業再生と労務問題

事業承継で従業員はどうなるの?

先代社長の下で働いていた従業員Yが私の方針に従わず、何でも反対します。
反対する従業員は、降格や配置転換したいと考えています。
どのような点に注意すればいいでしょうか?

このような降格や配転は、人事権の行使として行うことが考えられます。

しかしながら、人事権は無制約に行使できるものではなく、「人事権の濫用」と評価される場合は無効となります。

業務上の必要性がない場合や、業務上必要性があるとしても「特段の事情」がある場合には濫用とされます。

「特段の事情」の例として、最高裁判所が出した判決で人事権についてのリーディングケースとして扱われている判例では「他に不当な動機、目的がある場合」「(労働者が)通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる場合」が挙げられています。

人事権の濫用についての判断は、裁判例に照らすと、次のような傾向にあります。
すなわち、

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 経営状況等、人事権行使の必要性
  • 人事権行使に対する労働者側の帰責性
  • その帰責性に対する使用者側の評価の適切性
  • 人事権行使の結果の妥当性
  • 代償措置の有無
  • 従業員側との交渉の状況
  • 当該企業の中での昇進・降格・配置転換の運用状況

といった事情を総合して判断した結果、人事措置に合理性が欠けるようであれば、人事権の行使が濫用と認められます。

そのため、合理性を維持できるように手立てを講じることが、濫用との判断を回避することにつながります。
換言すれば、不利益の軽減や代償措置といった労働者のための配慮(例えば手当金の支給)を図るように注意すべきと考えられます。

また、降格・配転に伴って減給や勤務地の変更といった労働条件の変更を図る場合には、労働契約法上、労働者との合意(同8条)、または労働条件を定める就業規則の合理的な変更および事前周知(同10条)が必要となります。

これは、使用者が一方的に契約内容を労働者の不利に変更することをできないようにして、労働者を保護する趣旨です。

そのため、労働条件変更につき、合意または適切な就業規則変更が備わっているか、注意が必要です。

これらが欠けている場合、労働条件変更が無効とされる可能性があります。
例えば、減給が無効とされたのであれば、差額の給与を支払うことになります。

私に対してあからさまに先代社長と比較し、反発する従業員Yがいます。
勤務態度も遅刻や欠勤、お客様とのトラブルがあるなどの問題社員です。
私の方針に従えないのであれば、会社を辞めてほしいのですがどうすればいいでしょうか?

会社を辞めてもらう際に注意すべきポイントを以下のQ&Aにまとめました。

懲戒解雇について

どのような場合に懲戒解雇は認められますか?

就業規則や労働契約上の根拠を満たすような行為があった場合に認められます。

逆に、就業規則や労働契約で根拠規定のないままで懲戒解雇は認められません(判例)。

就業規則に解雇の事由を記載する必要があります(労基法89条3号)ので、就業規則を見直しておくとよいでしょう。

従業員を業務命令拒否、無断欠勤を理由に懲戒解雇しました。
その後、裁判になり、経歴詐称も追加したいと考えた場合(当時、使用者が認識していなかった懲戒事由が出てきた場合)、経歴詐称は懲戒解雇の有効性を根拠づける理由となりますか?

基本的には、理由になりません(山口観光事件 最判平成8年9月26日)。

懲戒事由の後出しは基本的には許されませんので、懲戒解雇をする場合、事前調査と証拠の確保、解雇理由を網羅しておくことが必要となります。

解雇の手続き

普通(懲戒)解雇を行う手順を教えてください。

  1. 普段から指導・警告の内容を書面に残す体制を整えます。
    指導・警告時の本人の対応も記録に残すこと、人事考課もきちんと行うことも重要です。
  2. 証拠集めを行います。
  3. 解雇理由書に解雇事由となる事実を日時場所や内容等を挙げて具体的に記し、かつ、その事実が就業規則上のどの解雇事由にあたるか明確にします。
    なお、解雇事由は必ず証拠があるものを記載します。
    裁判で解雇事由の有無が争いになった場合、証拠がないと理由として認められることは難しくなります。
  4. 解雇理由書は、相手が検討する期間を与えて渡してください。例えば、週末に今後の身の振り方を考えてもらえるようにします。
    検討する時間があれば、相手が弁護士に相談することもできます。弁護士に相談されても、③で述べたような詳細な解雇理由書があれば、相手の弁護士が「自主的に退職して退職金をもらった方がよい」・「解雇無効を争っても裁判に勝てない」等、本人を説得してくれることも期待できます。

退職に応じてきた場合その他退職を勧める際に注意するポイントを教えてください。

従業員が退職に応じた場合、必ず自筆で署名入りの退職届を提出してもらい、退職の意思を確定させてください。
会社側は、退職の承認書を渡してください。

これは、後日、辞めた従業員から、「あれは退職ではなく、解雇だから、解雇予告手当を払ってくれ」と言われることを防ぐために行います。
また、退職届の撤回を防ぐことにもなります。

退職届を出してもらうタイミングとしては、雇用保険の手続や離職票の手続とともに退職届を提出してほしい旨伝えて、退職届を出すよう促すことが考えられます。

解雇理由書は書かなければならないのでしょうか?

必ず書かなければいけないわけではありませんが、労働者から理由の開示を求められたら、これを交付しなければなりません(労基法22条1、2項)。
解雇理由証明書を交付しないと罰則があります(労基法120条 30万円以下の罰金)。

また、解雇の無効が争われた場合の証拠になりますし、上記のとおり、相手方が弁護士に相談した場合の資料になるので、書いた方がいいでしょう。

従業員の態度に我慢できず、今すぐ解雇すると言ったところ、従業員が解雇予告手当を支払ってくれと言ってきました。
払わなければならないのでしょうか?

払わなければならなくなる可能性が高いでしょう。

労働基準法20条で定める30日分以上の解雇予告手当の支払は、労働者に責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合、所轄の労働基準監督署長からの除外認定を受けることで、支払わなくてもよくなります。
しかし、除外認定を受けるための資料の準備に使う労力を考えると、即時解雇を行うことはお勧めしません。

解雇無効を主張してきた場合、相手方は何を請求してくるのでしょうか?

従業員の地位確認と解雇時から判決確定時までの賃金の支払いを請求してくると考えられます。

このような場合、多くのケースは一定の和解金で解決されています。

なお、和解で解決できずに判決になると、裁判所は労働法規を厳格に解釈しますので、労働者有利の判断に傾きがちであるといえます。

解雇無効を争われた際に請求される賃金は、どこまでの範囲になるのでしょうか?

基本給や諸手当は含まれてきます。
通勤手当(実費補償的なもの)や残業手当(実際に働かないと発生しないもの)は含まれません。

M&Aで従業員の雇用条件は維持されるの?

M&Aで事業承継をする場合(売り手側)の注意点

M&Aで事業譲渡をしたいと考えています。
事業譲渡をするにあたって、注意すべき点はどこにありますか?

事業譲渡の話が出た時点で、優秀な人材から辞めていってしまうことが考えられます。
そのため、従業員にばれないよう進めていくとよいでしょう。

M&Aで事業承継をする場合(買い手側)の注意点

M&Aで事業を譲り受ける場合、どのような点を注意すべきでしょうか?

労働者の個別同意が必要なので、労働者が譲渡後も残るかどうか不明である点は注意が必要です。

また、簿外の債務に、残業代請求やハラスメントの損害賠償請求といった訴訟リスクが潜んでいないかを検討する必要があります。

廃業する時の従業員への配慮

廃業を考えています。従業員に辞めてもらわなければなりませんが、どのような手続きを踏めばいいでしょうか?

廃業に伴い従業員を解雇することになります。
解雇予告手当も含めて従業員への未払いがないように、資金的な手当ても含めて計画を立てなければなりません。

また、解雇後速やかに失業手当を受けられるように雇用保険や社会保険の手続きを進めていきます。
顧問の社会保険労務士の方の助けを借りながら進めていきます。

破産で従業員を解雇するときの注意点

破産をせざるを得ない状況ですが、従業員をどのように解雇すればいいでしょうか。

破産においても、従業員の解雇が伴います。

まず、即時解雇をするか、予告解雇をするかを検討します。

即時解雇を選択すると、解雇予告手当を支払う必要があります。
しかし、解雇予告手当は、未払賃金立替払制度の対象外です。
そのため、破産を選択する場合には、従業員への賃金や解雇予告手当を事前に払えるだけの余力があるうちに行ってください。

そのためには、事前に専門家へ相談することが重要です。

また、未払賃金立替制度では、保護される賃金の期間や範囲が決まっていますので、制度を利用することが想定される場合には、速やかに破産申し立てをします。

そのためには、解雇のタイミングや破産申し立ての時期を事前に専門家へ相談しながら進めていくことになります。

もう1人で悩まないでください。
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