労基法違反、労働安全衛生法違反と刑事事件

労働基準法違反、労働安全衛生法違反と刑事事件

労働基準法(労基法)、労働安全衛生法(労安衛法)には、罰則規定が設けられており、違反すれば、懲役や罰金刑が課される可能性があります。
これらの罪については、労働基準監督官が警察官のように捜査を行い、検察官が起訴するかの判断を行うことがあります。

労働基準法違反

労基法違反としては、①賃金や労働時間等の労働条件を書面で明示していないこと、②賃金や退職金を支払っていないこと、③時間外労働等の割増賃金を支払っていないこと、④法定時間を超えて時間外労働、休日労働をさせてしまったこと等が挙げられます。

なお、36協定(労基法36条に定められているので36協定)という労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使協定において、時間外・休日労働について定め、行政官庁に届け出た場合には、法定の労働時間を超える時間外労働、法定の休日における休日労働が認められます。
その場合でも、その限度時間を超えた時間外労働、休日労働をすれば、労働基準法違反となります。

労働安全衛生法違反

労安衛法違反としては、①機械や設備等がその安全基準を満たしていないこと、②年一回の健康診断を実施していないこと等が挙げられます。

①については、例えば、作業箇所に親綱を張り、労働者に安全帯を使用させる等の事故防止措置を講じていなかったり、労働者にプレス作業を行わせる際、体の一部がスライドや刃部の可動域に入らないような安全囲いを設けず、代替する安全装置もつけていなかったりする場合が該当します。

刑事事件となる流れ

労働基準監督官は、労働者による違反の申告や労働災害の発生、独自の情報を契機に、調査を始めることになります。

使用者は、労基法上、労働者名簿、賃金台帳の作成を義務付けられており、労働者名簿、賃金台帳、雇い入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません。
労働基準監督官は、事業場等に臨検し、このような帳簿や書類等の提出を求め、尋問を行うことができます。

また、労働基準監督官には、使用者又は労働者に対して、必要な事項を報告させ、出頭を命ずる権限もあります。

労働基準監督官は、立ち入り調査をし、労基法等に違反すると考えた場合には、是正を指導したり、危険な機械等を使用停止にする処分をしたりします。
法令に違反すると考えられた場合には、違反事項や是正期日等が記載された是正勧告書等が交付されるので、使用者は、是正期日までに是正内容等を記載した是正報告書を提出することになります。

そして、死亡・重篤な労働災害が発生したり、監督指導を受けても是正しなかったりする等、違反の程度や態様等を踏まえて重大・悪質と労働基準監督官が考えた事案については、刑事事件として捜査されます。

労働基準法違反により処罰される者

労基法は「使用者」に多くの義務を課しています。
労基法では、「使用者」とは、①「事業主」としての会社や事業主個人、②「経営担当者」としての会社役員等だけでなく、③「事業主のために行為をするすべての者」として、その事業を指揮監督し決定権限を有するような実質的な権限を持つ者も含みます。

労基法は、違反行為をした従業者等だけでなく、事業主にも罰金刑を与えるという「両罰規定」があります。
但し、労基法は、事業主が違反の防止に必要な措置をした場合には、罰則を与えないという規定もあるので、事業主としては、従前から防止措置を施し、それを証明できる証拠を揃えておくことが重要です。

労働安全衛生法違反により処罰される者

労安衛法は、「事業者」に多くの義務を課しています。
これは、労基法の「事業主」とほぼ同じ意味で、会社や個人事業主のことです。
なお、労働者や請負業者、注文者、機械貸与者等にも個別に義務を課しています。

労安衛法も、違反行為をした従業者等だけでなく、事業者にも罰金刑を与えるという「両罰規定」があります。
労安衛法には、事業者が違反防止に必要な措置をした場合には、罰則を与えないという規定はありません。
しかし、両罰規定は過失責任を定めたものであるといわれているので、労基法と同様に事業主が違反の防止に必要な措置をした場合には、罰則を与えないと解釈すべきであると考えられます。

業務上過失致死傷罪

刑法211条に規定される業務上過失致死傷罪も、労働災害等の場面で問われ得る罪責の一つです。
同罪は、業務上必要な注意を怠ったことで、人を死傷させてしまった場合に該当します。

この規定は、直接過失行為を行った従業員が処罰されるだけにとどまらず、現場を管理すべき従業員や役員も責任を負う可能性があります。

もっとも、両罰規定が規定されておらず、従業員や役員個人が処罰されることはあっても、法人が処罰されることはありません。

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